賃貸の契約時に「火災保険は必須です」と言われて、
よく分からないまま2年1〜2万円のプランに加入した。
「正直、火事なんて起こさないし…」と思いながら。
もし心当たりがあるなら、この記事はかなり役に立ちます。
不動産の現場で入居者さんと話していると、
賃貸用の火災保険が「何をどこまで守ってくれる保険なのか」
きちんと理解されている方は、正直ほとんどいません。
しかも意外なことに、統計データを見ていくと
「火災」よりも「台風や水漏れ」の方が、
火災保険を使う件数が圧倒的に多い
という事実も見えてきます。
この記事では、公的データや実際の支払い事例をベースに、
- 賃貸の火災保険がカバーしてくれる範囲
- 「借家人賠償」「個人賠償」のリアルな使われ方
- 階下漏水・自転車事故・鍵紛失など、意外と知られていない補償
- 不動産実務の感覚から見た「おすすめの補償設計」
まで、できるだけ専門用語をかみ砕きながら 解説します。
賃貸の火災保険は「3つの保険のセット」だと考える
まず押さえてほしいのは、
賃貸の火災保険 = 「火事だけ」の保険ではない
しかも中身は 3つの補償のセット になっている
という点です。
火災保険の基本3本柱
ざっくり言うと、賃貸の火災保険はこの3つで構成されています。
| 補償の種類 | 守ってくれるもの | 目安の金額感 |
|---|---|---|
| ① 家財保険 | あなたの家具・家電・服・日用品 | 300万〜1,000万円 |
| ② 借家人賠償責任保険 | 建物(部屋)を壊してしまったときの大家さんへの賠償 | 1,000万〜2,000万円 |
| ③ 個人賠償責任保険 | 他人の物を壊したり、ケガさせたときの賠償 | 1億〜3億円 |
イメージでいうと:
- 家財保険:あなたの「持ち物」を守る
- 借家人賠償:大家さんの「建物部分」への責任をカバー
- 個人賠償:階下の住人や第三者など「他人」への責任をカバー
という役割分担です。
火災保険が一番使われるのは「火事」ではない
公的な統計や保険会社のデータを見ると、
実際の支払い件数はこんな順位になっています。
事故種別ランキング(ざっくりイメージ)
- 台風・大雨・雪などによる被害(風災・水災)
- 漏水などによる水濡れ
- 家の破損・汚損(物をぶつけた等)
- 落雷
- 火災
ポイントはここです。
「火災」よりも「台風・水災」の方が
約7倍も多く保険金が支払われている
つまり、名前は「火災保険」でも、
実態は 「自然災害+水回り+日常トラブルの総合保険」 だと考えた方がしっくりきます。
借家人賠償保険で実際に支払われたリアル事例
「本当にそんなに支払われているの?」と感じると思うので、
実際の支払い例をいくつか挙げます。
実際にあった支払い事例
| 事故内容 | 支払い保険金 |
|---|---|
| 風呂釜破損→階下に漏水 | 約103万円 |
| 寝タバコでボヤ→壁・床・天井の張替え | 約224万円 |
| 洗濯機の排水ホースが外れて階下に漏水 | 約84万円 |
| ストーブ火災で壁や床が焼損 | 約32万円 |
| 冷蔵庫搬入中に壁を破損 | 数万円〜十数万円 |
| 家具の搬入中に玄関の壁に大きな傷 | 十数万円 |
どれも、賃貸で普通に起こりうる事故ばかりです。
不動産の実務でも、
- お風呂の水を溢れさせてしまった
- 洗濯機のホースが外れていた
- 引っ越しの時に壁に穴を開けてしまった
といった相談は、年に何件もある現実的なトラブルです。
「どこまで補償されるのか」を整理してみる
階下への水漏れが起きたケース
典型的なケースで整理してみましょう。
ケース:お風呂の水を溢れさせてしまい、階下の天井から水漏れ
このとき動く補償は、それぞれ役割が違います。
自分の部屋の床・壁 → 建物の損害 → 借家人賠償責任保険
階下のお部屋の天井や壁 → 建物の損害 → 借家人賠償責任保険
階下の住人の家財(家具・家電・服など) → 個人賠償責任保険
一言で「水漏れ事故」と言っても、
- 建物の部分なのか
- 人の持ち物なのか
で、動く保険が変わるイメージです。
個人賠償責任保険が「実は一番重要」な理由
個人賠償責任保険は、
日常生活の中で他人に損害を与えてしまったときの保険 です。
象徴的なのが、自転車事故の判例です。
小学生の自転車事故で約9,500万円の賠償命令
- 小学5年生の自転車が女性と接触
- 女性は意識不明、寝たきり状態に
- 裁判所が母親に対して 約9,500万円の賠償 を命じた判決 など
こうした重いケースだけでなく、日常のちょっとした事故でも役立ちます。
個人賠償でカバーされる典型例
- 自転車で歩行者にケガをさせてしまった
- お店の商品を落として壊してしまった
- カフェで他人のPCに飲み物をこぼした
- 子どもが他人の車を傷つけた
- ペットが他人に噛みついた
- マンション階下の住人の家具が、水漏れでダメになった
ここでポイントになるのは、
賃貸の火災保険に「個人賠償責任保険」がセットになっていると、
こうした日常のリスクも一括でカバーできる
ということです。
「借りた物」「預かった物」は補償対象外になりがち
意外と盲点なのが、受託品(人から預かった物・借りた物) の扱いです。
受託品が火災保険で守られないことが多い
たとえば、
- 友人からカメラを借りていて落として壊した
- 同僚から借りたスーツケースを破損してしまった
このようなケースは、
基本の火災保険や個人賠償では「対象外」 になっていることが多いです。
ただし、
- 個人賠償責任保険に「受託品特約」を付ける
- クレジットカードの「携行品補償」を活用する
など、ルート次第でカバーする方法はあります。
ここは プランごとの差が大きいポイント なので、
本当に守りたい人は、加入時に一度チェックしておく価値があります。
「こんなときも火災保険が使えるの?」という意外なケース
火災保険(+特約)は、名前から想像しづらいケースでも使えることがあります。
落雷で家電が壊れたケース
- 近所に雷が落ちた
- そのあとテレビやPC、ゲーム機が壊れた
この場合、家財保険で補償される ことがあります。
「古い家電だから仕方ない」と諦めている方も多いですが、
実は申請すればカバーされる典型例です。
台風で窓ガラスが割れたケース
- 台風で何かが飛んできて窓ガラスが割れた
- ガラスだけでなく、カーテンや家具も濡れてしまった
この場合のイメージは:
窓ガラス・窓枠 → 建物部分 → 大家側の火災保険
室内のカーテン・ソファ・家電 → あなたの家財保険
となることが多いです。
鍵をなくした場合
保険会社によっては、
- 家の鍵開けサービス(30分以内は無料など)
- 場合によっては鍵交換費用の一部補償
といったサービスが付帯していることもあります。
「とりあえず鍵屋さんを呼ぶ前に、保険の証券を一度見てみる」
というひと手間で、数万円単位で変わることも珍しくありません。
火災保険は「使っても保険料が上がらない」
ここも大事なポイントです。
自動車保険は、使うと等級が下がって 翌年から保険料が上がる 仕組みですが、
火災保険には 等級制度がありません。
| 項目 | 自動車保険 | 火災保険 |
|---|---|---|
| 等級制度 | あり | なし |
| 使ったあとの保険料 | 上がる | 変わらない |
| 使用回数制限 | 実質的にあり | 制限なし |
つまり、
該当する事故があれば、
「遠慮せずに相談した方がいい保険」
と言えます。
「使ったらもったいない」と思って申請しない方も多いですが、
火災保険に関しては、考え方を一度リセットしても良いかもしれません。
原状回復ガイドラインと「入居者負担」との関係
賃貸で退去時のトラブルになりやすいのが、原状回復の範囲 です。
国土交通省のガイドラインでは、ざっくりこう整理されています。
基本ルール
- 大家負担
- 経年劣化(日焼け、年数による劣化)
- 通常の使用による消耗(家具を置いた跡など)
- 入居者負担
- 故意・過失による損耗(飲み物をこぼしたシミ等)
- 善管注意義務違反(タバコのヤニ汚れなど)
たとえば、
| 状況 | 誰の負担? |
|---|---|
| 壁紙の日焼け | 大家 |
| タバコのヤニで壁紙が変色 | 入居者 |
| 家具を置いた跡 | 大家 |
| 飲み物をこぼしたシミ | 入居者 |
ここで入居者負担になる部分は、
借家人賠償責任保険がカバーする余地がある領域 です。
保険料の相場と、現場感覚から見た「おすすめライン」
保険料のざっくり相場感
賃貸向け火災保険の相場は、だいたいこんなイメージです。
| 契約年数 | トータル保険料 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 2年契約 | 15,000〜20,000円前後 | 約625〜830円 |
| 1年契約 | 4,000〜10,000円前後 | 約330〜830円 |
補償額の目安(実務感覚込み)
家財保険
| 世帯 | 推奨ライン |
|---|---|
| 一人暮らし | 300〜500万円 |
| 夫婦 | 500〜800万円 |
| 3人以上の家族 | 800〜1,500万円 |
正直、一人暮らしでも300万円はあっという間 です。
家具・家電・服・パソコン・ゲーム・自転車など、
1つずつ金額を出していくと「案外いくな」と感じるはずです。
借家人賠償
| 物件タイプ | 推奨ライン |
|---|---|
| 都内ワンルーム(RC造) | 1,000〜2,000万円 |
| 1LDK〜2LDK(RC造) | 2,000〜3,000万円 |
| 木造アパート | 2,000〜3,000万円 |
| 木造の貸家 | 3,000〜5,000万円 |
個人賠償責任保険
- 最低でも1億円
- 可能であれば 3億円まであるプラン を推奨
自転車事故の判例などを見ていると、
ここは「ケチるところではない」と感じています。
メリット・デメリットを整理しておく
賃貸火災保険をきちんと設計するメリット
- 火事だけでなく、台風・水漏れ・落雷・盗難など幅広くカバーできる
- 階下漏水や自転車事故など、高額賠償リスクから家計を守れる
- 退去時の原状回復トラブルの一部を保険でカバーできる余地がある
- 等級制度がないので、必要なときに遠慮なく使える
- 正しく説明できる不動産会社・オーナーとは信頼関係を築きやすい
デメリット・注意点
- 補償内容を理解せず「なんとなく一番安いプラン」を選ぶと、いざという時に足りない
- 受託品(借りた物など)は、別途特約が必要なことが多い
- 保険会社や商品によってサービス内容(鍵・水回りサポートなど)に差が大きい
- 「大家指定の保険」でしか加入できないと勘違いしているケースもある(実際は選べる場合もある)
実務の感覚から見た「賃貸火災保険の選び方」
不動産の現場で入居者さんと話していて、
個人的に これだけは押さえた方が良い と感じているポイントをまとめると:
- 火災保険は「賃貸生活の総合保険」と割り切る
- 家財は「失ったら困る合計額」を一度ざっくり計算してみる
- 借家人賠償は、最低でも1,000〜2,000万円は持っておく
- 個人賠償は 1〜3億円ライン を目安にする
- 自転車によく乗る人・小さなお子さんがいる家庭は特に個人賠は厚めに
- 「受託品特約」「鍵・水回りサービス」が付いているか一度確認する
- 毎月数百円〜の差で大きく安心感が変わるので、「一番安い」を基準に選ばない
自分に合った補償が分からないときは
ここまで読んでいただいて、
- 「今自分が入っている保険で、どこまでカバーされているか分からない」
- 「家財の金額設定が適正か不安」
- 「これから賃貸契約だけど、どう選んだらいいか知りたい」
という方も多いと思います。
保険は「入っていれば安心」ではなく、
中身を知っているかどうかで安心度がまったく変わる 分野です。
もし、
- お部屋探しとあわせて火災保険も一緒に見直したい
- 今の契約内容が妥当かどうか、第三者目線で確認してほしい
という場合は、相談ベースでお話することもできます。
「とりあえず今の証券を見てほしい」
「これから賃貸契約するけれど、どのタイプが合うか知りたい」
など、軽い相談でも大丈夫です。
重要ポイントまとめ
最後に、本記事のポイントをコンパクトに整理します。
🎯 今日押さえておきたい5つの事実
- 賃貸の火災保険は3つのセット
- 家財保険/借家人賠償/個人賠償の役割を分けて考える
- 一番多いのは火事ではなく「台風・水漏れ」
- 名前に惑わされず、「賃貸生活の総合保険」として捉える
- 階下漏水・自転車事故は高額賠償リスク
- 個人賠償は最低1億円、できれば3億円ラインを目安に
- 火災保険には等級がない
- 使っても翌年の保険料は上がらないので、対象事故なら遠慮なく相談して良い
- 「一番安いから」で選ぶと、いざという時に足りない
- 自分の家財額・住んでいる建物のタイプ・生活スタイルに合わせて設計することが大事
火災保険は、「入らされるもの」ではなく、
うまく使えば家計と暮らしを守るかなり強力な武器 です。
これから賃貸契約をされる方、すでにご入居中の方も、
一度ご自身の補償内容を見直してみてください。
「思っていたより守られていない」「逆に無駄な部分が多い」など、
新しい発見があるはずです。
原状回復の考え方については、
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
でも公式に整理されています。
また、火災保険の統計は
日本損害保険協会の統計ページ
が参考になります。

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